研究領域の現状 159
理論・計算分子科学研究部門
鹿 野 豊(若手独立フェロー(特任准教授) ) (2012 年 2 月 16 日着任)
A -1).専門領域:光物性物理学,量子光学
A -2).研究課題:
a). 非平衡凝縮体の生成および検出 b).ハイブリッド量子系における制御理論 c). 光信号増幅の技術開発
d).平衡状態の情報科学的見地からの再定義
A -3).研究活動の概略と主な成果
a). 半導体中のマイクロ共振器系における共振器ポラリトンはそのフォトルミネッセンスを検出することから凝縮体を形 成することが知られている。これが平衡状態に近い系で知られているボーズ・アインシュタイン凝縮体として捉えら れるかどうか問題であった。低密度励起領域では,近似的にボーズ・アインシュタイン凝縮体として解釈しても問題 でないということを明らかにし,高密度励起領域では,従来のレーザー発振とは違う領域が存在することを理論的に 予言し,実験でもその理論予言がサポートされる結果を得た。
b).近年,量子情報処理を中心に注目されている異なる物理系に実現された有限次元の量子力学系をハイブリッド量子 系と呼ぶ。近年,実験に成功されたダイアモンド中の窒素・格子欠陥中心と超伝導量子ビットとの結合系において, そのマグノン制御のための条件を明らかにした。
c).1分子光検出などで必須の技術である微弱信号の増幅技術を量子力学の干渉効果をうまく用いることにより明らか にすることが出来た。具体的には,ビームプロファイルをガウスモードではなく非ガウスモードを用いることにより, より大きな効果の信号増幅が出来ることを示した。
d).熱力学と統計力学はどちらもマクロな物理を取り扱う理論であるがその対応関係は明確になっていなかった。そこで, 平衡状態において情報科学的見地を用いて操作論的に統計力学を定義し直し,もともと操作論的に定義されてきた 熱力学との対応関係を情報理論的エントロピーを用いて明らかにした。
B -1). 学術論文
Y. SUSA, Y. SHIKANO and A. HOSOYA, “Optimal Probe Wavefunction of Weak-Value Amplification,” Phy. Rev. A 85, 052110 (7 pages) (2012).
H. KOBAYASHI, G. PUENTES and Y. SHIKANO, “Extracting Joint Weak Values from Two-Dimensional Spatial Displacements,” Phys. Rev. A 86, 053805 (4 pages) (2012).
B -2). 国際会議のプロシーディングス
Y. SHIKANO, “The counterfactual process in weak values,” Phys. Scr. T151, 014015 (2012).
Y. SHIKANO, J. HORIKAWA and T. WADA, “The discrete-time quantum walk as a stochastic process in quantum mechanics,” Phys. Scr. T151, 014016 (2012).
160 研究領域の現状 B -3). 総説,著書
Y. SHIKANO, Time in Weak Value and Discrete Time Quantum Walk, LAP Lambert Academic Publishing, Germany (2012). Y. SHIKANO, “Theory of “Weak Value” and Quantum Mechanical Measurements,” in Measurements in Quantum Mechanics, M. R. Pahlavani, Ed., InTech, Croatia, pp. 75–100 (2012).
Y. SHIKANO, “Special issue on quantum walks,” Quant. Inf. Proc. 11, 1013–1014 (2012).
B -4). 招待講演
鹿野 豊 ,.“On the usefulness of Weak-Value amplication,”.A MO 討論会,.和光,.2012年 6月.
B -8). 大学での講義,客員
チャップマン大学 ,.客員助教 ,.2011年 11月–..
C ). 研究活動の課題と展望
これまではそれぞれの物理スケールを固定した解析を行ってきた。しかし,今後の課題としては,これらを有機的に組み合 わせるような手法を構築しなければならない。例えば,平衡熱力学は理想気体の分子運動論にもともとは立脚していたはず であるが,そのミクロスケールの物理現象を捨象することにより,抽象的理論が展開されてきた。マクロな機能の発現を狙う 理論の構築やミクロの素過程の理解のためには,これらの物理スケールを超えた解析が必須になるであろう。そのための現 象論的結果を半導体レーザーと共振器ポラリトン凝縮体との対応関係を調べることにより手がかりを得たと思われる。